2023/11/24 更新
渡良瀬遊水地は面積が33km2と非常に広く、またいくつかの良い環境要因に奇跡的に恵まれてきたため、暖温帯の低湿地に生育する植物の宝庫となっており、とりわけ重要なのは絶滅危惧種が極めて多いということです。
渡良瀬遊水地で記録された維管束植物
合計 852種類
そのうち、国指定絶滅危惧種 65種
①個体数
画像は春の風景です。
足の踏み場のないほどびっしりと国の絶滅危惧種が!
トネハナヤスリ、エキサイゼリ、ハナムグラ、ノカラマツ、ノウルシ、ヌマアゼスゲ、ノダイオウ、タチスミレ、マイヅルテンナンショウ
これらはたくさんの個体が生育していて、いずれの種についても国内最大の産地と思われます。
②種数
確認された絶滅危惧種の数は64種です。64という数はどの程度のものなのでしょう?
渡良瀬遊水地の大部分は栃木県に属していますので、栃木県全域と比較してみましょう。
栃木県全域の国指定絶滅危惧種数は260種です(絶滅種を除く)。
栃木県の面積は6,408 km2です。
したがって栃木県の種数の密度は、260/6,408=0.041 で、4.1種/100km2と計算されます。
同様にして全国の密度を計算してみると(当会調べ)、2.9種/100km2となります。
渡良瀬遊水地では、種数64で、面積は33km2 ですから、64/33×100 ≒ 194 で、
種数密度は、194種/100km2となります。
つまり、渡良瀬遊水地の種数密度は平均と比べると3桁も違っていて、絶滅危惧種が極端に集中しているということがわかります。
右の画像は、2005年の日本植物学会で口頭発表され、2009年に記載論文が著された、新種のワタラセツリフネソウです。
記載論文:
渡邊幹男・芹沢俊介 2009 「ツリフネソウ属の1新種ワタラセツリフネソウ」 『シデコブシ第1巻 第2号』p61-70 愛知みどりの会(愛知教育大学自然科学系生物領域内)
渡良瀬遊水地が基準産地ですが、現在までの調査で、関東地方の低地(標高およそ100mまで)にまれに点在していることがわかっています。
渡良瀬遊水地にはたくさんあるのですが、それまではツリフネソウ(山地に普通)と同じものと思われていました。
しかし形態に違いがあることと、遺伝子に違いがあることが明らかになって、新種として発表されたのです。
詳しくはこちらのサイトにあります。
http://cafegrancino.com/mo/dp2005.10.htm
花には、内部に黄色い色があるもの(黄)とないもの(白)があり、また斑点のあるもの(斑)とないもの(無斑)があって、その組み合わせで4つのタイプがあります(画像参照)。探してみてはいかがでしょうか。
渡良瀬遊水地にはまだ未記載種のある可能性が残っています。
これだけ広いので未踏の場所も多く、まだ人の目に触れられていないものもあるかもしれません。
普通はめったに見られないいろいろな絶滅危惧種や新種が、ここではあたり一面に生えているのです。
絶滅のおそれのある種がこれほどまとまって残っている自然は国内では他に例のないほどで、その点で極めて高い価値を渡良瀬遊水地は持っていると言えるでしょう。
(文責 MO)